「PR活動っていつから始めるべき?」
という質問をたまにいただきます。「PRするときになったら」とか「PR担当を入れる頃に」といった言い方をすることもあり、“PR活動はしかるべき時期が来たら着手するもの”と考えている人が多いように感じます。
これに関しては、根本から考え方を変えないとなかなかうまくいきません。
今回は、PR活動をいつから始めるべきかや、PR担当をつける時期について、「PRが宣伝やマーケティングとどう違うのかよくわからない」程度の理解度の方向けに解説していきます。
「PR活動」とは何のことか
冒頭のような質問をされるとき、まずは「PR活動」がどんな活動のことを言っているのかをはっきりさせる必要があります。
一般的にイメージされるのは下記のとおり。
- プレスリリースを作成して配信する
- メディアに取り上げてもらえるよう声をかける
- 自社SNSで活発に情報発信をする
このように、「PR活動はプロジェクトの内容が固まってから、世の中に出す最後のタイミングで行なうもの」と認知されています。
しかし実は、アウトプットそのものがPR活動なのではなく、そこに至るまでの思考回路や発想のほうに「PR視点」が活かされている状態が理想的。逆に言えば、PR視点をプロジェクトの上流から入れていなかった企画やサービスを、最後の見せ方だけではどうにかするのはかなり難しいのです。
PR活動とは最後に行なう宣伝・アピールではなく、もっと早くから取り入れていくべき発想のこと。
この考え方をまず念頭に置くと、自分たちの事業においてやるべき活動が見えやすくなってきます。
PR活動は、最後の最後だけ頑張っても無力
小さい会社の場合は特に、予算やリソースの確保が難しいことから、PR機能は後回しにされてしまいがち。
大企業でも「上や他部署から落ちてきた情報をプレスリリース化するだけ」といった最後の砦的な機能しか備わっていない広報部はめずらしくありません。
私自身もフリーになったばかりの頃は、
「もうちょっと会社の体制ができてからお願いします!」
「企画の詳細が固まったらお声掛けしますね!」
「再来週頃(リリース日直前)には情報お渡しできると思います!」
といったことを言われ、最後の砦扱いをされてしまうこともありました。その前の経緯やストーリーはよくわからず、プロジェクト最終過程になって“宣伝”としてお願いされるという形です。
正直、すべて内容が固まってプレスリリースを出す段階になってから声をかけていただいても、PRパーソンができることは多くありません。だからこそ、PRの本質を理解して経営戦略の上流から視点を入れていくことでチャンスは大きくなります。
PR視点を経営の上流から入れていく、の考え方
この図を見るとわかるように、一般的にイメージされている《従来のPR活動》に対して、下の《理想的なPR活動》ができるといい感じです。
多くの人は上段のように、
- 事業計画を立てる
- プロダクトを開発する
- 広告やセールスプロモーションに注力
- セールス(営業活動)で売る
- 最後にPR活動でメディア露出
というプロセスを取ります。しかし実際には下段のように、事業計画段階からPR視点を入れていくように働きかけていくのが理想的です。
PRは好き勝手につくったものをメディアに取り上げさせる魔法ではないので、最初からPR視点を入れずに話を進めてしまうと、
- 企画自体が社会の時流と合っていない
- メディアが取り上げたくなるフック要素がない
- どの角度から見ても掲載切り口が見つからない
といった感じで苦労することになります。逆に、最初から「社会が求めているもの」を目がけてつくっていけば、大きくずれずに済みます。ここで注意したいのは、「社会が求めている」という状態は、「ユーザーが喜ぶ」「売上が立つ」「製品の質がよい」を満たしていたとしても必ずしもイコールにはならないということ。
田舎で地元民たちに愛されて50年続く定食屋さんが、テレビで紹介されたりSNSで注目を浴びたりすることが少ないのと同じことです。
社会時流や世論などの全体的なコンテクストがあるなかで、どこの領域に自分たちの事業やプロダクトをフィットさせられるかを考えることが、「PR視点を取り入れた事業企画」となります。
「こんなに良い商品なのにメディアに取材してもらえない!」
というときは、PR手法に問題があるわけではなく、発想方法や事業そのものの位置づけを見直すことで解決することがあります。
まとめ:PR活動をはじめるタイミングは事業企画段階
話を戻すと、「PR活動はいつから始めるべき?」という問いの答えは「今すぐ」です。
「サービスローンチのタイミングでPRを仕掛けたいです!」
とご依頼いただくことがたまにあるのですが、PRはローンチのタイミングで仕掛けるものではなく、事業企画段階から視点を入れていくタイプの活動です。
その“視点”の中身は時代によって変化していきますが、
- 社会性・・・社会問題の解決につながるか
- 意外性・・・興味を引くインパクトがあるか
- 新規性・・・今までにない新しい発想か
- 希少性・・・他がやっていない画期的なものか
- 時事性・・・季節や時流、トレンドとの関連があるか
- 人間性・・・人の想いやストーリーが乗っているか
などは比較的普遍な要素と考えられています。
はじめから「社会」を起点にものごとを捉え、企画やプロダクトに落としこんでいくことが大切です。
PRは即効力というよりじわじわ効いていくことが多いので、視点をブラさずにコミュニケーションを続けていくことで、半年後や一年後に実を結ぶことも珍しくありません。時間がかかる活動であることを考えても、PRを考えるのは早ければ早いほうがいいといえます。
とはいえ、PR視点を取り入れた経営は初めは難しいので、経営者自身の感覚は磨きつつ、早めの段階からPRパーソンをプロジェクトに投入するという荒業もおすすめ。そのPRパーソンが、
- 進み始めた話にどんどん入っていく
- なるべく多くの事業企画寄り会議に参加していく
- チーム内連絡の全チャンネルに入って流れを見ておく
- 社内フォルダをくまなく見れる状態になる
- 経営メンバーと定期的に対話をする
- 社内メンバーと雑談やランチ含めたくさん会話する
といった動きを数ヶ月かけて重ねていくことで、だんだんとPR視点が浸透した組織・チームになっていきます。
PR活動はどうしても「メディア掲載」などが目に見えやすいのですが、人間と人間のコミュニケーションと同じで、目に見えない活動が意外と大切になってきます。
PR活動開始のタイミングを見計らうのはやめて、できるだけ早めにPRパーソンを投入し、組織全体に「視点」や「発想」を根付かせて、全社員PRパーソン計画を進めていきましょう。
おわり。