「編集者」と「ライター」というふたつの職種。
どちらも記事をつくる人ですが、その役割が具体的にどう違うかは、業界外の人にとってはいまいちわかりづらいのかなと思います。
特にWebの場合、きちんとした編集部の体制がなくても、自社メディアやnoteなどを使って記事を出すことも可能です。私はどちらの役割も担当する中で、役割や求められるスキルがかなり違うと実感していますが、混同されてしまっていることも少なくないなと思っています。
企業で働く他職種の方や、編集者やライターとして働いたことはないけれど記事を作ることになった広報さんなどに向けて、「編集者」と「ライター」の役割の違いをシェアします。
Contents
編集者は全体を編む人、ライターは文章を書く人
まず一般論として、どういう定義がされているのか。書籍や雑誌を想像してもらったほうがわかりやすいかもしれません。
編集者の役割
編集者の仕事は、まず企画を立てるところから始まります。どんな企画を、どのくらいの予算で、誰に協力を仰いで(ライター、フォトグラファー、デザイナー、イラストレーターなど)、どこに取材や撮影に行き、いつまでに作るのか。5W1Hを考えます。
そして調整も編集者の役割なので、記事をつくるのに取材が必要であればその依頼をし、スケジュールを調整します。
原稿はライターさんが書くのですが、全体の構成をディレクションするのは編集者の役目。原稿全体に赤を入れて完成にもっていくのも大事な作業です。
Webの場合は記事単位でのデザインやレイアウトなどは発生しないことが多いですが、逆に最近では公開後のSNSシェア手配なども、編集者の調整のなかに入ってきます。
ライターの役割
ライターの仕事は、記事を書くこと。多くの場合「執筆」のパートだけを行うので、編集者から依頼されて動きます。
ただ、ここで「編集者から依頼される=編集者の下の立場」と捉えてしまう人が多いのですが、私は編集者とライターの立場は極めて対等で、フラットなパートナーの関係性だと思っています。言われるがまま下請けの気持ちだと良い記事はできません。
ライターは「書く」というスキルを使って原稿を仕上げていきますが、基本的には編集者さんと事前に構成を相談し、お互い納得した構成で書き上げていきます。書いて終わりではなく、編集者さんのフィードバックを受けて修正も何度か行き来します。
媒体問わず、「フリーライター」を名乗り専門分野がある人は、逆に編集者さんに対して企画の提案から行っていることも珍しくありません。
書籍や雑誌に比べ、Web編集者とWebライターの境は曖昧になりやすい
書籍や雑誌はわかりやすいけど、Webメディアの「編集者」「ライター」となると、その境目が曖昧になりやすいです。
両方のスキルをもち一人二役をこなす人も多いからです。
だけど、絶対的にそれぞれの役割の違いはあるため、両方できる人ばかりではありません。編集者寄りのライター、ライター寄りの編集者、だいたいそのどちらか。両方できたとしても「自分はどちらがより得意か」はほとんどの編集者・ライターが自覚していると思います。
私自身も、編集者として入るときとライターとして入るとき、記事への向き合い方を変えています。具体的には、書いた次の日に編集の眼で見るようにしたり、書いたときとフォントや閲覧デバイスを変えてチェックしたり。そうしないと、両方の悪いところが出た変な記事になるのよ……。
ちなみに、このブログメディアは完全ワンオペなので、編集とライティングの両方をひとりでやっています。編集的な作業をしているときと、書いているときでは、スイッチが切り替わりますね。
編集者にはマクロの視点、ライターにはミクロの視点
では具体的にどう視点が変わるのか?について、よくあるWebのインタビュー記事的なものを想像してもらいながら、その違いをより細かく言語化してみます。
編集者は「鳥の眼」をもち、俯瞰して構成する
編集者は、「マクロな視点=鳥の眼」をもって企画・構成をします。誰にどんな内容の話をどの順番で聞けば面白い記事になるかな、と、想定質問などを作っておきます。それを事前にインタビュイーにどのように共有するかでも、素材の質が変わってきます。
調整もするので、写真や図などの挿入画像も含め、ディレクションしていきます。オーケストラでいう指揮者のような役割ですね。
細かい原稿確認のレベルでいうと、まず先に見るのは大きな構成で、その1レイヤー下として文字表現を見るというイメージです。
構成とは、どっちの文章のまとまりが先にあると読みやすいか、この流れで読者はスムーズに理解できるか、といったこと。読みやすい文字表現ももちろん考えますが、それはライターさんのほうがスキルが高い場合も多いです。
ライターは「虫の眼」をもち、近寄って言葉を組み立てる
一方ライターは、「ミクロな視点=虫の眼」で文章の細部にまで向き合います。
編集者と合意した構成を意識しながら、文章を書いていきます。表現力やリズム感、語感のコントロール、独特の言い回しなど、いわゆる「文章力」が求められるのがライターです。
インタビュー記事などの場合、話を書き起こしたものを手直しすれば記事になると思っている人もいるのですが、「話し言葉」と「書き言葉」はまったく違うので、実際はかなり表現を変えています。
話し手の雰囲気、前後の文脈なども読み取りながら、その人が心の奥で本当に言わんとしたことにはどんな言葉が適切か考えます。そして、ときにバッサリと発言をカットしたり、大幅に背景説明を書き加えたりするアレンジ力も試されます。高い語彙力を駆使し、編集者ですら思いつかないような表現を繰り出していくのがプロのライターです。
音のリズム感もよく、するすると読めるのが流れのいい文章。このクオリティを追求するには、やはり編集者さん1人の視点では難しいことが多いのです。
編集者が指揮者なら、ライターは演奏者。どちらが欠けてもベストな音楽は奏でられないですね。
もちろん、誤字を絶対に許さないという意味では編集者もめちゃくちゃ虫の眼になる瞬間がありますし、ライターも構成そっちのけで表現にフォーカスしてしまうとバランスが崩れます。あくまでわかりやすく対比するならの話。鳥の眼を取り入れながら書けるライターや、虫の目に切り替えて原稿に向き合える編集者は、とても少ないので重宝されます。
広報PRまわりで起きがちなこと:書ける人はいるけれど……
しっかりしたメディアであれば編集者とライターの役割分担が明確で、ひとりで記事をつくるなんてありえないこと。ただ、企業のオウンドメディアやnoteでの発信が簡単になり、経験のない「広報PR」の人などが記事をつくるケースも増えています。
という風潮もあったり。
ですが、やっぱりプロの編集者とライターがタッグを組んで作った記事かどうかは、少し読めばわかります。パッと見は記事っぽくなっていても、読む人が読めば「構成ボロボロだなー」ということもあります。
「すらすら最後まで読めた」と「途中で読むのをやめてしまった」の違いって、読者は自分の集中力や読解力の問題だと思ってしまうのですが、実は編集者とライターのスキルによるものかもしれません。
「文章を書く」こと自体は日本人であれば誰でもできます。広報やインターン生に「記事ちゃちゃっと書いといてよ!」と言うのは簡単ですが、高いギャラでもオファーされるプロの編集者やライターがなぜ存在しているのか、知っておいて損はないですね。
役割の違いについて理解して、ネット上になるべく質の高い記事を流していけるように心がけましょう。
▼文章力を鍛えたい人はこちら
おわり。